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私たちを取り巻く世界は急激に変化してきています。昨今の人・モノ・資本や情報の流通は、速度といい質量といい、桁違いです。生成AIの発展は、新たな他者の出現を予感させます。「人新世」という地質学的な単位が注目され、人間と自然環境との相互作用が大いに問題となってきています。背景や価値観を異にする人々、文物が身近に交錯するようになり、相互理解や対話がしばしば失敗し、激しい摩擦や対立が起こっています。
人間が地球上から消滅するのが、唯一の解だ、という虚無主義に陥る前に、この世界を生き抜くための様々な世界観があちこちから提唱されています。例えば、「不完全」な人間が、不完全なモノや超自然的な力と向き合い、ともに不完全な世界を構成しているのだというカメルーン出身の哲学者であり人類学者、ニャムンジョさんの哲学はその一例です。分断や孤立、あるいは自分自身に潜む、他者を支配したいという誘惑にも抵抗しながら、不調和と折衝して折り合い、最終的には利益を互いに分かち合うコンヴィヴィアリティ(conviviality, 一義的には「宴会」のこと)の実現を目指す、という一つの方向性を示してくれています。
そうしてコンヴィヴィアリティを実現しようと努力するプロセスは――私は学問の場の多くもそうでなければならないと考えていますが――、どこかリレーに似ています。大学とは、そういった与えてくれた当人には返すことのできない「何か」を受け取り、それを別な人(やモノ)に手渡す義務の崇高さとアイロニーを感じる場でもあると思いますし、そうでなければならないと思います。
最近は学問にも「役に立つかどうか」を問われることが増えました。しかし、すぐ役に立つことは、すぐに役に立たなくなります。人生を支える根幹になる長期的なものほど、短期的な評価にはみあわないものです。私たちは、みなさんのキャリアに直接結びつくことはもちろんですが、もっと大切にしたいと考えているのは、頼りにしていたものごとが役に立たなくなったときに、みなさんを支えてくれる「誰か」や「何か」とのたぶん当初は予想していなかった出会いの場をつくりだしたい、ということです。目的がはっきりした道具――スキルももちろんですが、むしろ、みなさんの今後の未来を支える「何か」との出会いを提供する環境――おおげさに言えば「生」を劇的に変容させる何かとの「出会い」の場でありたいと考えています。
国際人間科学部長
梅屋 潔
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